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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)101号 判決 1998年3月19日

アメリカ合衆国60015イリノイ、ディヤフィールド、バクスターパークウェイ1

原告

バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド

同代表者

エイ・ジラード・シーク

同訴訟代理人弁理士

赤岡迪夫

早坂巧

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

荒井寿光

同指定代理人

佐藤久容

前田仁

田中弘満

廣田米男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための付加期間を90日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成6年審判第6230号事件について平成6年10月28日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文第1、2項と同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「フィルムのウエブヘフィットメントを取り付けるための装置および方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について、昭和60年2月1日にアメリカ合衆国においてした特許出願による優先権を主張し、日本国を指定国として昭和61年1月31日になされた国際出願(国際出願番号PCT/US86/00207)に基づく特許法184条の5第1項の規定による書面を、昭和61年9月26日に提出(昭和61年特許願第501078号)したが、平成6年1月7日、拒絶査定がなされた。そこで、原告は、同年4月12日、審判を請求したところ、特許庁は、この請求を同年審判第6230号事件として審理した結果、同年10月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月12日、原告に対し送達された。なお、その際、原告のための出訴期間として90日が付加された。

2  特許請求の範囲第1項の記載の発明(以下「本願第1発明」という。)の要旨

成形、充填およびシール可撓性バック製造機械においてフランジおよび開口を有するフィットメントをフィルムのウエブへ取り付けるための装置であって、前記フィットメントを前記フィルムの一方側へ配向するための手段と、フィルムを刺通し同時にフィルムをフィットメントのフランジへそしてフィットメントの開口内ヘシールするための手段を備えていることを特徴とする前記装置(別紙図面1参照)

3  審決の理由

審決の理由は別添審決書理由記載のとおりである(ただし、11頁8行目の「つつまれる」は「つままれる」の誤記である。以下、同理由中における昭和52年特許出願公開第24778号公報(引用文献)を「引用例」といい、同引用例記載の発明を「引用発明」(別紙図面2参照)という。)

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由のうち、引用例の記載内容、本願第1発明と引用発明との間に審決認定のとおりの一致点と相違点が存在すること、審決における相違点1の判断内容については認めるが、その余は争う。

審決は、引用発明の技術的意義に関する認定を誤った結果、本願第1発明の相違点3に係る構成の想到困難性について判断を誤り、かつ、本願第1発明の相違点2及び3に係る構成の奏する顕著な作用効果を看過した結果、本願第1発明が引用発明から容易に想到されたものであるとした点において違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  相違点3に係る構成についての判断の誤り(取消事由1)

ア 審決は、フィルムのウエブにフィットメントを取り付けるための装置において、フィルムを刺通すると同時に、そのフィルムをフィットメントのフランジ及びフィットメントの開口内にシールするための手段を、本願第1発明のように「フィットメントの開口内ヘシールする手段を有するもの」とするか、又は、引用発明のように「フランジのみに対するシール手段」とするかは、引用発明と「同じ部材(摺動ブロック、コアピン、ダイ)からなる高周波加熱シール手段を前提とした場合、作用効果に実質的に差異のない(略)合理的な設計範囲として許容されるダイ、コアピン、結合ニップルの寸法関係のバリエーションにより得られる溶着シール位置の関係を結果として表現したにすぎず」(審決書12頁16行ないし13頁2行)、当業者が容易に想到できたものと判断するが、誤りである。

イ すなわち、引用例には、上記のような寸法関係のバリエーションを示唆する記載はまったく存在しない。

むしろ、引用発明は、「フィルムの端部の存在領域がフランジ部で終了しており、フランジ領域以外のフィットメント開口部に対してフィルムをシールする手段を必要としていない」(審決書12頁11行ないし14行)ことを前提とするものであり、また、引用例第8図(別紙図面2第8図)に記載の実施例に係る構成により、充分に目的を達成することができるところであるから、引用発明においては、上記の寸法関係について、敢えてバリエーションを加える動機も必要性も存在しない。

ウ 更に、引用発明においては、そもそも、ダイ、コアピン、結合ニップルの寸法関係のバリエーションによる構成をもってフィルムを刺通し、そのフィルムを、フィットメントのフランジのほか、フィットメントの開口内にシールすることは不可能である。

(ア) すなわち、引用例第8図(別紙図面2第8図)における、引用発明の「ダイ、コアピン、結合ニップルの寸法関係」にバリエーションを加えない場合のシール工程は、次のとおりである(別紙図面3参照)。

a コアピンの鋭利な先端46が、フィルム21をニップル(フィットメント)28に向かって押しつけ、フィルムに穴を開ける(同図面(1)、(2))。

b ピンをニップルに向けて更に進めると、ピンの先端は、穴の面積がニップルの開口面積にほぼ一致するまで穴を押し広げ、以後ピンの円弧部の始点がニップルの頂部の高さに一致する状態に達する(同図面(3))。

このとき、フィルムの穴の縁部分は、ニップルの開口内径の1/2に相当する距離だけ、開口内に引き込まれる。

c 更に、引き続くピンの前進運動により、ニップルの上端及び引き込まれたフィルムの穴の縁部分は、同図面(4)の状態に拡大きれる。

d 次いで、二っの電極間に高周波電圧を印加し、挟持されたニップル及びフィルムの一部を加熱溶着する。

しかしながら、このような方法によっては、フィルムの穴縁部分は、形成されたニップルのフランジを越えてニップルの直管部内壁にまで達することはない。

(イ)a これに対し、審決が想定するバリエーションとは、「フィットメントの内径がフランジ部を形成する曲面長さに較べ、ある程度大きい場合」(審決書10頁19行及び20行)をいうものであると解され、また、被告は、本願第1発明のコアピンとフィルムとの関係を別紙図面4のとおりであるとし、フィルムが一部フィットメント開口内に引き込まれるはずであると主張する。

b しかしながら、被告が主張するように、フィルムが破断することなくフィットメント開口内に引き込まれるためには、フィルムが無緊張状態にあるか、それともフィルムの材質がゴムのような伸縮自在の材料によるものであることを要する。

ところが、引用発明におけるフィルムは、皺も弛みもなく、平坦な緊張状態に保たれたものとされている。

c(a)更に、引用発明において使用されるバッグチューブ及びニップルは押出し成形によって造られるが、一般に、プラスチックは「熱硬化性樹脂」と「熱可塑性樹脂」に分類され、押出し成形が可能なのは後者の熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂は、加熱により軟化して塑性を示し、冷却により固化するという熱的性質を有しており、これを利用して成形されるが、この成形方法は、プラスチックの「ガラス転移点」以上の温度範囲により、プラスチックを一軸又は二軸方向に引き伸ばすことによって物性を改良するという技術であって、当然、延伸時に、プラスチックが塑性を示すように加熱されなければならない。

(b)しかしながら、引用発明において、フィルムが高周波加熱されるのは、コアピンがフィルムを破り、フィットメントの上端部を、フィルムを介して朝顔状に拡開し、フィルムをコアピンとダイの間に挟持した状態(別紙図面3(4)図、同4(6)図)になってからであり、それ以前の工程では加熱され、延伸されることはない。

d 以上からみるならば、引用発明のフィルムは、別紙図面4(3)図の段階において、同図に記載のように延伸され、フィットメントの開口部内に突入するということはあり得ない。

すなわち、引用発明においては、コアピンによってフィルムに傷がつくと、フィルムは脆性破壊現象により即座に分離破断され、穴が開くから、別紙図面4のように、フィットメントの開口範囲外からのフィルムの引き込み、あるいはフィルムの延伸に起因して、フィルムがフィットメント開口内に突入するということは起こり得ないものである。

e また、引用発明において、「フィットメントの内径がフランジ部を形成する曲面長さに較べ、ある程度大きい場合」には、フィルムは、コアピンにより分離破断された後、フィットメントのフランジ形成前に、フィットメント内径の断面積分だけ開口内に引込まれ、このフィルム部分が、フランジ形成時に、フランジに溶着される部分と開口内に留まる部分とに按分されることになる。

しかしながら、引用例第8図(別紙図面2第8図)には、ダイ側の電極である金属頂板52の萼51の円弧面が、頂板52の底面から始まり、頂面で終わっていることが図示されており、また、萼51は引用発明のフランジを形成する部分であるから、引用発明は、フランジに溶着するフィルム部分のみをシールする構造とされ、フィルムをフィットメントの開口内にまでシールする構造とはされていないことが明らかである。

したがって、引用発明において、フィルムをフィットメントの開口内にまでシールするためには、ダイ側の電極をそれに合わせたものに設計し直さなければならないが、このような変更は、原告の主張する寸法関係のバリエーションには当らない。

エ 他方、本願第1発明のシール手段は、

(ア) フィルムをフィットメントのフランジにシールする手段(面36を含む当接部材34)、

(イ) フィルムを刺通すると同時に、フィットメント開口部の断面積に相当するフィルム部分をフィットメント開口内にシールする手段(尖端40及び細長い本体38を含むヒートシール先端32)

を含み、かつ、これらの手段は、常時加熱されているものである。

オ 以上のとおりであるから、本願第1発明の相違点3に係る構成は、当業者において、引用発明から容易に想到し得たものではないというべきであり、これを容易に想到することができたとした審決は、その判断を誤ったものである。

(2)  相違点2及び3に係る構成の奏する顕著な作用効果についての判断の誤り(取消事由2)

ア 本願第1発明は、予めフランジが形成されたフィットメントと、穴開けされていないフィルムのウエブを用いることを前提とし、フィルムを刺通すると同時に、フィルムをフィットメントのフランジ及び開口内にシールする常時加熱のシール手段によって、そのシール性を顕著に強化するという作用効果を奏するものであるにもかかわらず、審決はこの作用効果を看過したものであり、誤りである。

イ すなわち、本願第1発明は、上記のとおり、予め形成されたフランジを有するフィットメントを使用し、シール手段を常時加熱しているから、フランジに接触するフィルム部分のみならず、ヒートシール先端が接触するフィルム部分はすべて軟化され、フィットメントの開口部の断面積に相当するフィルム部分の全部が、フィットメント開口内壁にシールされるとともに、フィットメントのフランジの面積に相当するフィルム部分が、フィットメントのフランジにシールされる。

これに対し、引用発明では、仮に、引用発明のバリエーションにより、フィットメントの開口内に至ったフィルム部分がシールされるとしても、前記ウ(ア)eのとおり、フィットメントの開口部の断面積に相当するフィルム部分の一部がシールに関係するだけである。

したがって、フィットメントとフィルムのシール強度については、溶着面積の違いによって、本願第1発明の装置によるものが、引用発明及びそのバリエーションによるものよりも常に大きくなり、両者の間には作用効果において歴然たる差異が存在する。

ウ また、引用発明の実施例のうち、フランジが予め形成されたフィットメントを用いる引用例第12図(別紙図面2第12図)のもの及び審決において周知例(米国特許第3894381号明細書、昭和41年特許出願公告第4078号公報)とされた明細書及び公報に記載された発明においては、フィルムをフランジにシールする手段を有するものではあるが、フィットメント開口内にシールする手段は有しておらず、本願第1発明特有の上記作用効果を奏するものではない。

エ したがって、本願第1発明は、予めフランジが形成されたフィットメントと、フィルムを刺通すると同時にフィットメントのフランジ及び開口内にシールする手段とを備えることによって、上記の顕著な作用効果を奏するから、当業者において、本願第1発明を引用発明に基づいて容易に発明することができたものとする審決の判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の反論

1  請求の原因1ないし3の各事実は認める。

同4は争う。

審決の認定判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

2  取消事由についての被告の反論

(1)  取消事由1(相違点3の判断の誤り)について

ア 引用例第8図(別紙図面2第8図)における引用発明のシール工程は、別紙図面3に示されるようなものではなく、別紙図面4に記載のとおりのものであることが想定される。

(ア) すなわち、コアピンの下降に伴い、コアピンとフィルムとが接触し、フィルムに対する破断力か作用するが、フィルムが所定の破断強度を有する場合には、フィルムは、即座には破断せず、コアピンの先端によりフィットメント開口内に押し込まれようとする(別紙図面4(2)図)。

(イ) やがて、フィルムは、フィットメント上縁部に接触するが、フィットメントとの間に滑りが発生するため、破断強度に達するまで、更にフィットメント開口内に引き込まれる(同(3)図)。

(ウ) フィルムが、破断強度に達し破断すると、それ以上フィットメント開口内に引き込まれないが、その時点において、フィルムは、コアピン円筒部によりフィットメント開口内周面に加圧保持される(同(4)図)。

(エ) コアピンが更に下降し、フィットメント上縁部がフィルムを介してコアピン円弧面に当接すると、フィットメント上縁部は、コアピン円弧面から作用する力により、フィルム上を滑りながら拡開を始める(同(5)図)。

(オ) コアピンの下降が終了すると、フィットメント上縁部におけるフランジ部の拡開も終了するが、破断されたフィルムは、コアピンの円筒部により、直管状フィットメントの開口内周面に加圧保持され、この状態で、高周波加熱により溶着シールが行われる(同(6)図)。

イ 審決は、上記のような、フィルムの破断、シール状況をも考慮した上で、引用発明について、「第8図に示される寸法関係を有する態様ではなく、フィットメントの内径(内径の1/2の誤記)がフランジ部を形成する曲面長さに較べ、ある程度大きい場合には、破断されたフィルムの端部が加工後のフィットメント直管部である、いわゆる、開口部にまで垂れ下がることが考えられる」(審決書10頁18行ないし11頁3行)と説示したものであり、審決における相違点3についての判断は、引用発明の一実施例として引用例第8図(別紙図面2第8図)に具体的に示された、ダイ、コアピン、結合ニップルの形状についての寸法関係(フィットメントの内経の1/2≦フランジ部曲面の長さ)だけではなく、それに近接する寸法関係(フィットメントの内径の1/2の長さが、フランジ部曲面の長さに比べて、ある程度大きい場合)のものも、引用発明の設計変更範囲のものとして包含されることを前提としてなされたものである。

これに対し、原告は、引用発明について、寸法関係のバリエーションを想定することはできないと主張するが、特許出願関係の書類に記載される発明の実施例は、出願に係る発明のすべてを示すものではなく、願書に添付される図面も、発明を理解するための補助的な手段に過ぎないものであるから、引用発明においても、「フィットメントの内径の1/2の長さが、フランジ部を形成する曲面長さに較べ、ある程度大きい場合」が、発明の構成部分に関する寸法関係のバリエーションとして設計変更の範囲内に含まれるとすることは、ごく自然なことである。

ウ そして、引用例第8図(別紙図面2第8図)のバリエーションとして想定される「フィットメントの内径の1/2が、フランジ部を形成する曲面長さに較べ、ある程度大きい場合」には、その構造上、破断されたフィルムの端部が、加工後のフィットメント直管部である、いわゆる開口内にまで垂れ下がることは自明のことである。

エ また、引用発明においては、使用されるフィルムの材質、厚さ、強度等について何らの限定も付されていないため、必ずしも、フィットメントとの接触時に、即座にフィルムが破断されるものとみなす必要はない。更に、フィルムは、前記アのとおり、フィルムの伸びに対する抵抗が破断強度に達するまでの間、開口内に引き込まれるほか、フィットメントとフィルムとの間に滑りが発生する場合には、これがさらに増大するものということができる。

したがって、開口部へのフィルムの引き込みは、フィルムに発生する伸びに対する抵抗と、フィルムの破断強度の大小関係によって決定されるものであり、原告主張のように、フィルムが無緊張状態か、それとも伸縮自在の材料である場合の二つの極端な場合に限って、限定的に発生するものとすることはできない。

なお、原告の主張する熱可塑性樹脂フィルムについても、ガラス転移点温度以下の常温において、外力により伸び得るものであることは、日常使用されている一般のラップフィルムの例からも明らかである。

オ そして、上記のとおり、フィットメントの開口内に垂れ下がったフィルムが開口部に溶着されず、そのまま残存するならば、そのことが容器としての機能に悪影響を与えるものであることは、当業者の技術常識(例えば、昭和58年特許出願公告第13328号公報参照)というべきことであるから、これを防止すべく、該垂れ下がり部を、溶着手段により開口部に溶着することは、当業者が容易に想到し得た事項であることは明らかである。

そのため、原告が寸法関係のバリエーションに当らないと主張する、引用発明のダイ側電極の設計変更(例えば、電極の下縁を延長すること等)についても、当業者において容易に想到し得た事項であるというべきである。

カ 以上によれば、本願第1発明の相違点3に係る構成が、引用発明から容易に想到されたものであるとする審決の認定判断には誤りはないものというべきである。

(2)  取消事由2(顕著な作用効果)について

ア 原告は、本願第1発明と引用発明とのフィルムの溶着面積の差異に起因して、本願第1発明のシール強度は引用発明のシール強度よりも顕著に大きいものと主張する。

イ しかしながら、審決が、本願第1発明の相違点2についての判断として説示したとおり、可撓性バックの製造装置において、「最初から形成されたフランジおよび開口を有するフィットメント」を採用することは、周知慣用の技術手段というべきであり、原告の主張に係る上記作用効果は、上記の周知慣用の技術手段から十分に予測し得た範囲内の事項であるから、それを格別顕著なものと認めることはできない。

ウ また、本願第1発明を、別紙図面4のような加工工程により得られる引用発明と対比し、その作用効果を検討しても、審決には誤りはない。

すなわち、原告の主張する作用効果の差異は、コアピンとの接触により、フィルムが即座に破断し、かつ、フィットメントとフィルムとの間に滑りがないことを前提としているが、フィルムが即座に破断せず、かつ、フィットメントとフィルムとの間に滑りが発生する場合には、当初の段階において、フィットメントの範囲外にあるフィルムの引き込みが発生し得るから、両者のシール強度の違いは格別なものとはいえない。

エ 更に、原告は、本願第1発明における、フィルムを刺通し、それをフィットメントのフランジ及び開口内にシールする手段が常時加熱されたエレメントであることから、フィットメントの開口の断面積に相当するフィルム部分の全部がフィットメント開口部の内壁にシールされると主張する。

しかしながら、上記シール手段が常時加熱されたエレメントであることは、本願第1発明の要旨である特許請求の範囲第1項には何ら記載されておらず(上記の「加熱」は、実施態様項である特許請求の範囲第3項において初めて技術的な限定要件とされているに過ぎない。)、また、溶着シールに必要とされる加熱要素と加圧要素は別部材として配することも可能なものであるから、原告の上記主張は、本願第1発明の要旨外の事項に基づくものとして、失当というべきである。

オ したがって、本願第1発明の作用効果についての審決の認定判断にも、原告の主張するような誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本願第1発明の要旨、審決の理由)については、当事者間に争いがない。

また、引用例の記載内容、本願第1発明と引用発明との間に審決認定のとおりの一致点と相違点が存在すること、審決における相違点1についての判断内容についても当事者間に争いがない。

第2  本願発明の概要について

成立に争いのない甲第2号証の1(本願発明についての出願公表公報、以下「本願公報」という。)及び同号証の2(平成5年11月17日付け手続補正書)によれば、本願発明の概要は以下のとおりであることが認められる。

1  本願発明は、フィルムのウエブにフィットメントを取り付けるための装置及び方法に関するものである(本願公報2頁右下欄5行及び6行)。

2  特に、医薬品、食品及び乳製品を含むいくつかのタイプの包装技術においては、容器にアクセスするための手段(フィットメント)を含む可撓性容器を造ることが望ましい。フィットメントは、容器と外部との間の流体連通のためのポートを提供する。

フィットメントを含む可撓性容器は、成形、充填及びシール包装機械により製造することができる。成形、充填及びシール包装機械は、フィルムのウエブを、所望製品を収容ずる可撓性容器に成形するための装置を提供する(同2頁右下欄10行ないし23行)。

典型的な成形、充填及びシール包装機械においては、フィットメントは、衝撃ヒートシールシステムによって取り付けられる。通常、ヒートシールシステムは、フィットメントのフランジ部分に実質上類似した形状を有するリング加熱エレメントを利用する(同3頁左上欄6行ないし9行)。

3  リング部材を使用する衝撃システムは、フィットメントをもった容器を製造するために使用すのことができるが、いくつかの欠点がある。

衝撃リングシステムは、込み入ったハードウエアであり、そのため、破損及び/又は摩耗し、交換を必要とする多数の部品を含んでいる。更に、これらの部品は、包装すべき製品もしくは容器自体を汚染するバクテリア及び汚染物のための溜りを提供する。

無菌的な成形、充填及びシール包装機械においては、この点は、いくつかの不利益を産む。衝撃システム中の部品が多数のため、衝撃タイプシステムを滅菌することは困難である。更に、無菌性を確実に維持することが困難である(同3頁左上欄14行ないし23行)。

典型的なボックス中のバッグ構造においては、フィルムは、典型的には予め刺通される。そのため、フィルムのウエブは予め刺通され、フィットメントは、フィットメントと容器との間に流体連通が存在するように、予め刺通された穴の上に配置される。先行技術は、また、予め刺通された穴にフィットメントを通す方法が使用される。これらの両方法は、フィットメントが正確に予め刺通された穴の上又は中に配置されることを必要とし、可撓性容器の製造をスローダウンさせる。

フィルムのウエブにフィットメントを取り付ける先行技術方法の他の不利益は、フィルムのウエブがフィットメントの口内にシールされないことであり、そのために、製作された容器は、フィルムのウエブを口の中にシールした場合ほど装飾的に快適でなく、機能的ではない。

更に、フィットメントの穴を予め打ち抜くとき、フィルムの結合層と容器内に収容されている流体との間に、流体連通が存在し得る。

そのため、フィットメント取り付け装置及び方法について、上記のような先行技術の問題点の克服が求められる(同3頁右上欄1行ないし18行)。

4  本願発明は、上記課題を解決するため、要旨記載の構成を採用したものである(同3頁右上欄20行ないし同頁左下欄14行)。

5  本願発明の利益は次のとおりである。

フィットメントを、フィルムのウエブに刺通し、同時に取り付けるための装置及び方法を提供すること

フィルムのウエブを、フィットメントのフランジばかりでなく、フィットメントの口部分の内にシールするための装置を提供すること

連続的に加熱されるフィルム刺通具及びシーラーを提供すること

フィルムへのフィットメントのシールの厚みが、フィットメントのフランジの端部において減少しないこと

フィルム刺通具及びシーラーが、容器の中味とフィルムの結合層との間に実質的に流体連通が存在しないように、フィットメントをフィルムにシールすること

無菌成形、充填及びシール包装機械に使用することができるフィルム刺通及びシール器具を提供すること

無菌的なフィットメント取付け装置及び方法を提供すること

各種のフィルムにフィットメントを取り付けるための装置を提供すること

装置がパイロージェン不含で、粒子を生成せず、高品質のシールを製造すること

装飾的に快適な包装を製造するフィルムのウエブにフィットメントを取り付けるための方法及び装置を提供すること(3頁左下欄15行ないし右下欄18行)

第3  審決取消事由について

そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。

1  取消事由1について

(1)  まず、成立に争いのない甲第3号証(引用例)によると、引用例には、引用発明について次のとおり記載されていることが認められる。

ア 「(略)前記摺動ブロックは4角で平行なパイプの形をし、その2つの長い側面41が同側面41と対向する外側のダイ49と協働し少くとも1個の結合ニップルを溶接するための支持面および対向電極として働くことを特徴とする結合ニップルを設けられたプラスチック袋を連続的に非汚染的に製造する装置」(特許請求の範囲第2項、1頁右下欄1行ないし12行)

イ 「本発明は、結合ニップルを設けられたプラスチック袋を連続的、非汚染的に製造する方法および装置に係る。」(1頁右下欄14行ないし2頁左上欄1行)

ウ 「結合ニツプルの溶接中、端溶接および4側部に沿うシール溶接中は非汚染的であ(略)る。

全ての結合ニップルは閉鎖されたままであるから、殺菌性、無菌性は、この袋が使用されるため取り出されて殺菌状態で血漿、生理液などの殺菌液の注入液、又はミルクやその他の日常品などの純粋さ、又は化学的に純粋に包装することが必要な液が満たされる迄維持される。」(3頁右上欄7行ないし左下欄2行)

エ 「結合ニップル自身は殺菌状態で溶接できるので、本発明によれば、この結合ニップルは、任意の長さのホース片の形で、押出し無端ホースからとり出され(略)る。」(3頁左下欄7行ないし11行)

オ 「第7図には、摺動ブロック34の長さ方向の断面の1部が示されており、(略)開口42を通して突出できる先端46で終るプランジャー又はコアピン44が配設されている」(5頁左上欄5行ないし9行)

カ 「ピン先端46の前方には、袋21の底27へ溶接される結合ニップル28がある。ニップル28は、上端が萼として製作されたダイ49内に配設されていて、袋2の物質とニップル28の物質は溶接中、互いに円滑に溶け合う。

この操作の間、袋21の底27は、ニップル28の所でピス(判決注・ピンの誤り)先端46によってつままれるのでこの物質も、形成される溶接部に溶ける。

第8図には、若干拡大して完全なダイ49とピン先端46の詳細が示されており、ダイ49には、互いに溶接されるべき物質が互いに容易に溶けるようにするため尊51が設けられている。ダイ49は、金属の頂板52と金属の底板53によって形成され、その間には絶緑材54が設けられている。板52と53は機械的に結合されているがボルト56によって高周波溶接電流が流れるようにされている。」(5頁左上欄15行ないし左下欄1行)

上記認定の記載内容からみるならば、引用発明は、

ア 結合ニップル(フィットメント)が取り付けられたプラスチック袋を非汚染的に製造すること等を課題とし、

イ 結合ニップルが配設されたダイ49に対し、袋21を介在させて、摺動ブロックに配設されたコアピン44を進入させることにより、袋21の底27がピン先端46に摘まれるとともに、ダイ49の萼51の位置において、ニップル28の上端が拡開されて、フランジが形成され、

ウ それと同時に、フランジ部のニップル28の素材と袋21の素材とが、高周波溶接によって互いに円滑に溶け合い溶接部を形成する

ようにした、プラスチック袋の製造装置であることが明らかである(なお、そのうち、審決の認定に係る引用例の記載内容については、前記第1のとおり当事者間に争いがない。)。

(2)  一方、上記甲第3号証によると、引用例においては、ニップル、プラスチック袋(フィルム)、コアピン等の具体的な形状の相互関係について特に明記されていないことが認められ、また、別紙図面2第8図における引用発明の実施例の記載では、ニップルに上記フランジを形成する際、ニップルの穴位置に対応するフィルム部分が、ニップルに形成されたフランジ部にすべて溶着され、フランジ部を越えてニップルの直管部内壁に達するまでには至らない形状とされていることも窺えるところである。

そうしてみると、引用発明において、破断されたフィルムの端部が、加工後のフィットメントの開口内にまで進入する場合が生じ得るか否か、あるいは、生じた場合の対応方法等については、引用例の直接的な記載事項からは必ずしも明らかでないというべきである。

(3)ア  しかしながら、引用例が特許公報である場合において、当該公報にどのような技術的思想の創作が開示されているかについては、発明の詳細な説明に記載された特定の実施例のみから限定的に解釈すべきものではなく、むしろ、実施例とともに、発明の目的、機能、効果等を総合的に参酌して、その技術的思想を正確に把握し、それに基づいて構成内容を検討するのが相当というべきである。

特に、引用発明が属する物品の製造技術の分野においては、特定された製品に対して、最適な構造ないしは形状の構成部品を有する製造装置が設計されることが通常であるから、引用例に、「血漿、生理液、ミルク等の注入を目的とするプラスチックチューブ製袋を成形、シールして製造する製造機械において、取り付け時に取り付け側端部がフランジとして加工される開口を有する結合ニップルを袋表面に取り付けるための装置」であることが記載されている(この記載の事実も、前記第1のとおり当事者間に争いがない。)以上、そのニップルの形状(特にその内径)、フランジの大きさ等については、対象となる製品に応じて、大小様々のものが使用されるべきことは当然である。

イ  一方、ニップル上のフィルム部分については、コアピンの進入により、ニップルのフランジ形成前に、少なくとも、ニップルの開口内径の1/2に相当する距離分だけ開口内に引き込まれることは、構造上自明の事項と認められる。

(4)  以上からみるならば、引用発明から、ピンにより破断されたフィルムの端部が、フランジに加工後のニップルの開口内にまで及ぶ事例(ニップルの内径の1/2の長さがフランジ部を形成する曲面の長さより大きい場合)を想定することは、何ら不自然なことでなく、引用発明を実施するにあたり、当業者において当然に考慮すべき事項であることは明らかである。

したがって、引用発明については、原告主張のように、「フランジ領域以外のフィットメント開口部に対してフィルムをシールする手段を必要としていない」ことを前提とするものであるとし、それにより、引用発明を限定的に解釈すべきであるとすることは、妥当ではないというべきである。

(5)  そこで次に、引用発明において、ニップル(フィットメント)の開口内にフィルムを溶着シールするために、審決にいう「寸法関係のバリエーション」を加えることが、当業者において実際に想到し得たか否かについて検討する。

ア 成立に争いのない甲第6号証(昭和58年特許出願公告第13328号公報)によると、同号証には、名称を「頭部付容器の製造法」とする発明に関し、次のとおり記載されていることが認められる(別紙図面5参照)。

(ア) 「本発明は、合成樹脂製シートから頭部付袋状容器を作る方法に関する。」(2欄11行及び12行)

(イ) (従来技術の欠点の一つとして)「口部材を溶着すると共にシートに突孔するので、打抜き孔のような、周縁がきれいに切断された孔にならず、内容品の注出が滑らかに行かないこと」(2欄24行ないし27行)

(ウ) (実施例)「上金型はこの下金型と協同して密閉室10を形成するようになっている。次いで、この室10に、上金型に設けてある注入口11から溶融合成樹脂が加圧射入し、該室10を満し頭部を形成しながら、頭部とシートを溶着」する(3欄26行ないし30行)。

(エ) (作用効果)「孔2の周縁は頭部々材に密着しているので、内容液の注出も滑らかに行われる。」(4欄29行ないし31行)

上記認定に係る記載事項の内容及び甲第6号証の刊行時期等からみるならば、本願優先権主張日当時、審決認定のように、「破断されたままのフィルム面の残存に起因する内容品の排出阻害を回避するために、フィルム破断面をフィットメント内周面に溶着すること」は、可撓性バック製造機械の技術分野において周知の技術事項であったことが明らかである。

なお、甲第6号証の技術は、上記のとおり、プラスチック袋状容器の注ぎ口および肩を、射出成形により一体成形して溶着する技術であり、本願第1発明のシール溶着する技術とは異なるものであるが、上記のフィルム破断面をフィットメント内周面に溶着することについての周知技術を認定する上で、その違いが影響するものでないことは当然である。

イ 一方、引用発明において、「寸法関係のバリェーション」により、破断されたフィルムの端部がニップルの開口内にまで至ることを想定し得ることは、前記(4)のとおりである。

ウ そうすると、前記アの周知技術に基づいて、引用発明に対し、同発明における高周波加熱シール手段を前提に、加熱シールの作用に差異のない開口内シールのためのバリエーションを加えること、すなわち、引用発明の実施例(別紙図面第8図)の構成に即して、金属の頂板を、成形後のフィットメント直管部のうち、フィルムが垂れ下がるコアピン挿入部分まで延長するように構成することは、当業者が適宜なし得た程度のことであると認めざるを得ない。

エ なお、原告は、本願第1発明のシール手段について、それが常時加熱される構成を有するものであるとし、その点において引用発明等と構成を異にすると主張するかのようでもある。

しかしながら、本願第1発明の特許請求の範囲第1項には、シール手段について、「フィルムを刺通し同時にフィルムをフィットメントのフランジへそしてフィットメントの開口内ヘシールするための手段」と記載されているのみであるところ、この記載によれば、本願第1発明のシール手段は、「フィルムを刺通す作用」、「フィルムをフィットメントのフランジヘシールする作用」、「フィットメントの開口内ヘシールする作用」の3つの作用を同時に果たす機能を備えていれば足りるものと一義的に解されるから、原告主張のように、それを、常時加熱の熱シール手段に限定されるものとすることはできない。

更に、上記3つの作用を同時に果たす熱シール機能は、原告主張のような常時加熱する必要のある外部加熱方式に限らず、上記ウにおける引用発明のバリエーションの場合のように、加圧シール時に高周波溶接電流をもって通電加熱する内部加熱方式によっても達成することが可能なものであることは明らかであるから、両者の熱シール機能に相違するところはないものというべきである。

したがって、原告の、本願第1発明のシール手段についての上記主張は、本願第1発明の要旨に基づかないものであり失当である。

(6)  以上によれば、本願第1発明の相違点3に係る構成は、当業者において、引用発明から容易に想到することができたものと認めるのが相当であり、この点についての審決の認定判断に誤りはないものというべきである。

2  取消事由2について

(1)  本願第1発明は、予めフランジが形成されたフィットメントを使用するものであるが、引用発明のようにシール過程でその上端が拡開されるフィットメントを使用する場合に比べて、フランジの面積に相当する部分のほか、開口部へのシール部分が溶着面積に加わることから、フィットメントとフィルムとのシール強度が大きくなるという作用効果を有するものというべきである。

(2)  しかしながら、本願第1発明における、上記の「予めフランジが形成されたフィットメントを使用する」との構成は、審決において、引用発明との間における相違点2とされた構成であり、上記作用効果は、専らその構成に由来するものと解されるところである。

そして、成立に争いのない甲第4号証(米国特許第3894381号明細書)、第5号証(昭和41年特許出願公告第4078号公報)、更に前出甲第3号証(引用例)によれば、同各号証にはそれぞれ次のよらな技術内容が記載されていることが認められる。

ア 甲第4号証

「包装機械によりバッグもしくは袋にフィットメントを取り付ける方法及び手段」(1欄1行ないし3行、2欄66行ないし68行)について、第4図に、予め形成されたフランジ36を有するフィットメント21が、バッグ31に取り付けられた状態が記載されている(別紙図面6参照)。

イ 甲第5号証

「本発明は一般的に可撓性袋の製造に関(略)する。」(1頁29行ないし31行)

「ノズル(判決注・管状ノズル16を指す。)の下方部分には環状フランジ20が形成されている。フランジ20の下側はたとえば熱密封等によってパネル12の外面に堅く結合されかつパネル12を通して形成された開口18の周りに延びている。」(2頁左欄10行ないし13行、別紙図面7参照)

ウ 引用例

「第10図には、袋21に溶接された、特別に形成されたニップル58が示されている。」(5頁左下欄6行及び7行)、

「第12図には、摺動ブロックが示されており、(略)プラスチック袋21の底27の内側ヘフランジニップル98を溶接する」(6頁左上欄10行ないし12行)

これらの各記載によるならば、予めフランジが形成されたフィットメントあるいは管状ノズルを使用する袋製造技術は、本願優先権主張日前、既に周知であったことが明らかであり、一方、原告も、本願第1発明の相違点2に係る構成の想到容易性自体については、明らかに争うものではない。

(3)  そうすると、当業者が、フィットメントを取り付けた袋の製造という引用発明と同一の技術分野に属し、かつ、予めフランジの形成されたフィットメントを使用するという上記周知技術を、引用発明において採用することについては、容易に想到し得たものであることが明らかであり、また、シール強度についての上記作用効果も、その技術から当然に予測された範囲内のものというべきである。

(4)  なお、原告は、本願第1発明のシール手段が常時加熱されるものであるとし、それを前提としての本願第1発明の作用効果をも主張するが、上記シール手段の加熱についての主張が本願第1発明の要旨に基づくものといえないことは前記1(5)エのとおりであるから、上記作用効果の主張も失当である。

(5)  以上によれば、本願第1発明の作用効果について、それが周知・慣用の技術手段から予測し得たものであり、格別顕著なものではないとした審決の認定判断にも誤りがないことは明らかであり、原告の取消事由2についての主張も失当というべきである。

第4  よって、審決には原告主張の違法はなく、その取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというべきであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための付加期間の定めについて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

口頭弁論の終結の日 平成10年3月5日

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)

理由

本件の出願は、昭和60年2月1日に米国特許商標庁に出願された米国特許出願第697534号を優先権主張の基礎とする国際出願(特願昭61-501078号)であって、その第1番目の発明の要旨は、平成5年11月17日付け手続補正書で補正きれた明細書および図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項に記載されたとおりの、「成形、充填およびシール可撓性バック製造機械においてフランジおよび開口を有するフィットメントをフィルムのウエブへ取り付けるための装置であって、前記フィットメントを前記フィルムの一方側へ配向するための手段と、フィルムを刺通し同時にフィルムをフィットメントのフランジへそしてフィットメントの開口内へシールするための手段を備えていることを特徴とする前記装置」にあるものと認められる。

これに対し、原査定の拒絶の理由において引用された、本件出願の優先日以前に国内において頒布された刊行物である特開昭52-24778号公報[以下、引用文献という]には、第3~5図、並びに第7~8図対応の発明として、血漿、生理液、ミルク等の注入を目的とするプラスチックチューブ製袋を成形、シールして製造する製造機械において、取り付け時に取り付け側端部がフランジとして加工される開口を有する結合ニップルを袋表面に取り付けるための装置であって、前記結合ニップルを袋表面に対向させた状態で袋外部に保持する上端が萼として制作されたダイと、袋内部の摺動ブロックに配されたコアピンであって、ダイと対向する袋表面を刺通し同時にダイとの間にチューブ破断部を挟んでチューブを結合ニップルから加工されるフランジに高周波加熱により溶着させるコアピンを備えてなる前記装置が記載されている。

なお、引用文献記載の発明においては、特に第8図の記載から見て、コアピンにて破断されたチューブの端部(ピンの先端がチューブを破断する際に結合ニップル上端開口部の内壁部から該開口部内径の1/2の距離に位置する部分)は、ダイとコアピンの共働にて結合ニップルの取り付け側端部に曲面形状に形成されるフランジ領域にまでしか達せず、該部分にてチューブと溶着されているものと認められる。

そこで、本件第1番目の発明と引用文献記載の発明を比較すると、引用文献記載の発明における「プラスチックチューブ製袋」、「結合ニップル」、「袋表面」、「結合ニップルを袋表面に対向させた状態で袋外部に保持する上端が萼として制作されたダイ」が、それぞれ本件第1番目の発明における「可撓性バック」、「フィットメント」、「フィルムのウエブ」、「フィットメントを前記フィルムの一方側へ配向するための手段」に相当することは明らかである。

また、引用文献第5頁左上欄第15行目~同頁左下欄第1行目「ピン先端46の前方には、・・・流れるようにされている」の記載から見て、引用文献記載の発明における「摺動ブロック」、「コアピン」及び「ダイ」が、本件第1番目の発明における「フィルムを刺通し同時にフィルムをフィットメントのフランジへシールするための手段」に相当するものと認められる。

よって、両者は「成形およびシール可撓性バック製造機械において開口を有するフィットメントをフィルムのウエブへ取り付けるための装置であって、前記フィットメントを前記フィルムの一方側へ配向するための手段と、フィルムを刺通し同時にフィルムをフィットメントのフランジへシールするための手段を備えている前記装置」である点において一致し、次の点において相違しているものと認められる。

(相違点)

(1)本件第1番目の発明が対象とする可撓性バック製造機械は、成形、充填およびシールの工程を有しているのに対し、引用文献記載の発明に係る可撓性バック製造機械は成形、シール工程のみを行い、充填は別工程としてその後に分離して行われている点。

(2)フィルムのウエブに取り付けられるフィットメントが本件第1番目の発明では、「最初から形成されたフランジおよび開口を有するフィットメント」であるのに対し、引用文献記載の発明においては、「フィルムのウエブに対する取り付け時に取り付け側端部がフランジとして加工される開口を有するフィットメント」である点。

(3)フィルムを刺通し同時にフィルムをフィットメントのフランジへシールするための手段が、本件第1番目の発明においては、さらに「フィットメントの開口内へシールする手段」とされているのに対し、引用文献記載の発明においては、「フランジのみに対するシール手段」とされている点。

以下、各相違点につき検討する。

(相違点1)

従来より、可撓性バック製造機械として成形、充填およびシールの工程を合わせ行うものは、成形シールのみの工程を行うもの同様、広く使用されている周知の可撓性バック製造機械である(必要なら、一例として、米国特許第3894381号明細書参照)。また、本件第1番目の発明が、成形、シール工程のみならず、充填工程をも包含する可撓性バック製造機械を前提とすることにより格別な作用効果を奏するものとも認められない。

よって、対象とする可撓性バック製造機械を引用文献記載の発明における「成形、シール工程のみを行い、充填は別工程としてその後に分離して行う可撓性バック製造機械」から本件第1番目の発明における「成形、充填およびシールの工程を合わせ行う可撓性バック製造機械」とする変更は、当業者が格別な困難を伴うことなく容易に想到し得た設計変更にすぎないものと認められる。

(相違点2)

引用文献に記載された発明において、フィットメントとして「フィルムのウエブに対する取り付け時に取り付け側端部がフランジとして加工される開口を有するフィットメント」を用いている理由は、引用文献第3頁左下欄第8行目~第11行目に「この結合ニッケル(ニップルの誤記)は、任意の長さの・・・切断される。」と記載されているように、必要とされるフィットメントの形状が、無端チューブから取り出しうる形状であることを前提としてフィットメント作成工程を簡略化するためである。

また、引用文献第3頁左下欄第14行目~同頁右下欄第1行目「もし、結合ニップルが無端チューブからとり出せないときは、ニップルは別につくるべきである。」並びに、引用文献第5頁左下欄第10行目~第12行目「ニップル58のように、円滑なニップルから変形した形では連続したホースからは取れず、各ニップルは別に製作すべきである」と記載されているようにフィットメントが必要とする形状によっては別工程で製作されたフィットメントを用いうることは、当業者が適宜採用し得た事項である。

一方、可撓性バック製造機械の技術分野においてフィルムのウエブに取り付けられるフィットメントとして「最初から形成されたフランジおよび開口を有するフィットメント」を用いることも、原査定の拒絶の理由において引用された特公昭41-4078号公報、上記米国特許明細書等に記載されているように当該技術分野における周知・慣用の技術手段である。

してみるならば、引用文献記載の発明におけるフィットメントである、「フィルムのウエブに対する取り付け時に取り付け側端部がフランジとして加工される開口を有するフィットメント」に換えて「最初から形成されたフランジおよび開口を有するフィットメント」を用い、本件第1番目の発明の如くなす事は、必要とされるフィットメントの形状等を勘案し、当業者が、格別な困難を伴うことなく、容易に想到しうる事項にすぎない。

(相違点3)

引用文献記載の発明においては、フィルムを刺通し同時にフィルムをフィットメントのフランジヘシールするための手段が、シール領域としてフランジのみに対するシール手段である理由は、上述のように、特に第8図の記載から見て、コアピンにて破断されたチューブの端部(ピンの先端がチューブを破断する際に結合ニップル上端開口部の内壁部から該開口部内径の1/2の距離に位置する部分)は、ダイとコアピンの共働にて結合ニップル(フィットメント)の取り付け側端部に曲面形状に形成されるフランジ領域にまでしか達せず、該部分にてチューブ(フィルム)と溶着されるため、換言するならば、「フィルムの端部の存在領域がフランジ部で終了しており、フランジ領域以外のフィットメント開口部に対してフィルムをシールする手段を必要としていないため」と解される。

また、引用文献記載の発明においても破断されたフィルムの端部は、フィットメントの取り付け側端部に曲面形状に形成されるフランジ領域に溶着されるものであるから、本件第1番目の発明同様、粒状物およびバクテリアおよび類似物の溜まりとなることができる裂目、割れ目またはへりの空間のないきれいな表面を提供することができることは、自明の事項である。

ただし、第8図に示される寸法関係を有する態様ではなく、フィットメントの内径がフランジ部を形成する曲面長さに較べ、ある程度大きい場合には、破断されたフィルムの端部が加工後のフィットメント直管部である、いわゆる、開口部にまで垂れ下がることが考えられるが、この場合においてもフィルム及びフィットメントがダイとコアピンの間に包まれるように保持される(引用文献第5頁右欄第5行目~第7行目「この操作の間、袋21の底27は、ニップル28の所でビス(ピンの誤記)先端46によってつままれるのでこの物質も、形成される溶接部に溶ける。」の記載参照)ので、高周波加熱を行えばフィルム端部は、第8図に示される寸法関係を有する態様と同様、フィットメントの開口部に溶着シールされるものと推認される。

更に付言するならば、破断されたままのフィルム面の残存に起因する内容品の排出阻害を回避するために、フィルム破断面をフィットメント内周面に溶着することは、可撓性バック製造機械の技術分野において周知の技術事項(必要なら、一例として、特公昭58-13328号公報参照)であり、引用文献記載の発明において、第8図に示される寸法関係を有する態様から大きく隔たった寸法関係を有する態様(例えば、ピン径がフィットメント内径と較べきわめて小さい態様)を想定することは、当該技術分野の技術常識に照らし、かえって不合理である。

したがって、フィルムを刺通し同時にフィルムをフィットメントのフランジへシールするための手段を、本件第1番目の発明の如く、さらに「フィットメントの開口内へシールする手段を有するものとする」か、引用文献記載の発明のように「フィルムの端部の存在領域がフランジ部で終了しており、フランジ領域以外のフィットメント開口部に対してフィルムをシールする手段を必要としていない」ことを前提として、「フランジのみに対するシール手段」とするかは、引用文献記載の発明と同じ部材(摺動ブロック、コアピン、ダイ)からなる高周波加熱シール手段を前提とした場合、作用効果に実質的に差異のない上記合理的な設計範囲として許容されるダイ、コアピン、結合ニップルの寸法関係のバリエーションにより得られる溶着シール位置の関係を結果として表現したにすぎず、当業者が、適宜選択すべき、作用効果に格別な差異のない単なる設計的事項にすぎないものと認められる。

なお、本件審判請求人は、本件第1番目の発明は、フィットメントが初めからフランジを持っていることにより、フィットメントのヘリが薄くなって接着強度が低下しないという特有の効果を有する旨主張しているが、この効果は、相違点2にて検討した周知・慣用の技術手段から十分予測し得る範囲内のことであるから、このこと故に本件第1番目の発明が、格別顕著な技術的進歩性を有するものと言うことはできない。

したがって、本件第1番目の発明は、上記周知の技術事項を前提として、引用文献に記載された発明に基づいて、当業者が、容易に発明することができたものと認められる。

以上のとおりであるから、特許法第29条第2項の規定により、本件発明について特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

FIG.1

<省略>

FIG.2

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FIG.3

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FIG.4a

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FIG.4b

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FIG.4c

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FIG.4d

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図面の簡単な説明

第1図は、本発明のフィルム刺通およびシール器具の平面図を図示する.

第2図は、第1図のフィルム刺通およびシール器具の頂面図を図示する.

第3図は、第1図の線3-3に沿った第1図のフィルム刺通およびシール器具の断面図を図示する.

第4図は、フィルムのウニブヘフィットメントをシールするフィルム刺通およびシール器具の略図を図示する.

FIG.1

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FIG.2

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FIG.3

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FIG.4

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FIG.5

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FIG.6

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FIG.7

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FIG.8

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FIG.9

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FIG.10

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FIG.11

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FIG.12

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〔図面の簡単な説明〕

第1図は、従来の方法を説明するための図面、第2図は、従来の方法で得られた製品を示す図面、第3図は、本発明による方法を説明するための図面、第4図は、本発明の方法で得られた製品を示す図面、第5図は、動ブロツクに関してブラスチツク材を動させて送するための機構を示す図面、第6図は第5図図示の機構の変形を示す図面、第7図はコア内で的に変位可能なブランジャ又はコアヒンを示す図面、第8図は、コア内で可能なブランジャの特殊に形成された針を大してにす図面、第9図は、多のブランジャ又はコアヒンを同時に作動させる為のビストンーシリンダ系の合せを示す図面、第10図は、連したひもの形から取られずに、揺動機構によつての底へ連にれうる他のニツブル例を示す図面、第11図は、一計数器を取付けるのに第10図はよるニツブルを設けられた袋を用いる実例をす図面、第12図は、の内部へ突出したニツブルをするためコア内で変位可能な対向を示す図面

21…袋、 22…平らなチユーブ、

24…上端の溶接、 26…下端の溶接、

27…底、 28…結合ニツフブル、

29と31…シール溶接、 34…動フロツク、

37と38…ローラ、 39…スライダー、

41…フロツクの底、

42…開口、 43…孔、

44…ブランジャ又はコアビン、

46…ヒン先端、

47…ヒストンシリンダ系、

49…ダイ、 54…絶縁材、

58…ニツブル、 59…ビン、

60…接動機構、 61…スライド、

63…ピストンシリンダ系、

64…レール、 68…フランジ・ニツ

69…滴計数器、 71…アダブター、

73…ブランジヤー、 78…栓、

79…滴針、 96…孔、

97…対向型、 98…ニツブル

(1)

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(2)

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(3)

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(4)

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別紙図面5

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図面の簡単な説明

第1図は、孔を穿つたシートの平面図、第2図は成形金型でシートを挟持した状態の説明図、第3図は下金型と上金型とで孔の周囲に密閉室を構成した状態の説明図、第4図は、容器頭部を備えたシートの側断面図、第5図は上金型を除き、シートと下金型との係合状態を示す斜視図、第6図は第1図類似のシート平面図。

図中、Sはシート、21は帯、2は孔、22はスリツト、6は上金型、9と29は下金型、33は下金型の頂部円簡部、10は密閉室、12は容器頭部部材、Pは単位片。

別紙図面6

<省略>

図面の簡単な説明

10…アタッチメント

11…プラスチック原料

12…成形ダイ

13…チューブ状部材

14…回転シーリングユニット

20…継目

21…フィットメント

22…シュート

23…ユニット

27…シーリング

31…バッグ

34…パイプ

37、38…蓋

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

図面の簡単な説明

第1図は本発明によつて作られた型の袋裏張りの斜面図である。第2図は第1図の線2-2に沿つて致られた断面図である。第3図は第2図と同様な詳細図であるか、波形原紙箱に対する裏張りとして使用された袋を示す。

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